スタンリー・トゥッチが自ら20年来の〈親友〉コリン・ファースに共演オファー

 サムとタスカーを演じるのにふさわしい俳優を見つけることは大きな挑戦だった。生き生きと息づく関係を表現しなければならないが、二人の過去に起こったことは劇中では描き出されない。そのためマックイーンは、すでに友人同士である俳優を選ぶのが理想的だと考えていた。
 マックイーンとプロデューサーたちが、二人のうちの一人をアメリカ人にしたら物語がもっと動くのではないかと話し合った時、スタンリー・トゥッチが第一候補にあがった。すぐさま送られた脚本を読んだトゥッチは、「真実味があり同時に詩的で、信じがたいほどの純粋さに圧倒された。この二人が長い時間を一緒に過ごしてきたことに対して過剰な説明はなく、観客は目の前で展開することを見て二人の過去を理解する」と絶賛する。
 さらにトゥッチは自らの経験を例にこう説明する。「僕は最初の妻が亡くなるまで18年間連れ添った。彼女は4年間がんと闘い、そして逝った。ある人とそのくらい長く一緒に過ごし、その人をよく理解していれば、言葉で語らなくとも表現できる。サムとタスカーの過去も、脚本の行間にちゃんとあった」
 「自分自身をつぎ込んで貢献したいプロジェクトだ」と出演を快諾したトゥッチが懸念したのも、やはり二人を演じる俳優の絆だった。トゥッチは「二人の結びつきを本物だと感じることが出来れば、観客は彼らと一緒にどこまでも行ける」と指摘する。
 マックイーンは、トゥッチと初めて会った時のことをこう振り返る。「スタンリーは、『相手役を誰が演じるかについて話せるかな? コリン・ファースを考えてみたことがある? 僕から彼に脚本を渡せるよ』と言ってくれた。もちろん、僕は興奮して『それは素晴らしい、是非!』とお願いした。するとスタンリーは、『よかった。実はもう昨日渡したんだ。コリンはすぐに読んでくれて、気に入ったから君に会いたいと言っているよ』と答えたんだ!」
 トゥッチは、「僕はコリンと、また何か仕事をしたいとずっと思っていた。僕の映画への出演を何度か依頼したけれど、その度に断られた。この脚本を読んだ時、『適役を知っているぞ』とワクワクしたね」と説明する。
 ファースは、脚本が言わば“違法に”トゥッチから届いたことを認め、「茶封筒に入れてそっと渡された脚本を読みながら、スタンリーにぴったりの物語だと思った。僕は二人の関係にすっかり心を奪われ、個人としての彼らも、カップルとしての二人も大好きになった」と振り返る。
 ファースとトゥッチの友情は、2001年にロンドンで行われた『謀議』の撮影から始まった。マックイーンは、「彼らと時間を過ごすと、お互いに深い愛情と信頼を抱いていることがよく分かる。それこそ私たちが主人公の二人に求めたもので、唯一努力して作り上げる必要のないものになった」と微笑む。