これは史上最高のリメイク映画!
そんじょそこらのリメイクとは訳が違う!
“鮮血のイリュージョン”の異名も持つダリオ・アルジェント監督の独特な極彩美などから、それまでのホラー映画のイメージを一気に覆したオリジナル版だが、この“難攻不落の怪物”のリメイクに、ルカ・グァダニーノ監督が着手した。続編制作は不可能と言われた『ブレードランナー2049』を手掛けたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に近い無謀な試みともいえるが、あえてリメイクというより再構築という、大胆な手法を選んでいる。そのひとつがグァダニーノ監督自身“オリジナルの持つ色彩を、すべて忘れたこと”にあるが、それがどのような効果をもたらしたのかは、本編の謎を解く大きなカギといえるだろう。また、オリジナル版の主演女優が、時空を超越したキャラクターで再登場していることも、『ブレードランナー2049』と相通じる大きな魅力だ。ジェシカ・ハーパー演じるアンケとは、果たして何者なのか? その秘密が明らかになったとき、貴方は思わず涙することになる!
圧倒的に打ちのめされる、
観たことのない衝撃。
これまで体験したことのない、未知の“恐怖”世界を描いている、今回のグァダニーノ版『サスペリア』。観る者はその独創的な展開に、突如突き放されたかと思いきや、ジワジワと不安感を煽られ、その衝撃に圧倒されていく。そして、それがトラウマになるほど、後を引いていく不可思議な感覚は、ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』にも似た体験といえるだろう。ちなみに、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で主演を務めたビョークと主題歌でデュエットしたのは、本作で音楽を担当しているトム・ヨーク(レディオヘッド)。彼の奏でるサウンドが、そして彼のヴォーカルがフィーチャーされた楽曲「Suspirium」は、劇中どのようなシーンで流れるのか? ファンならずとも、それも注目すべき点といえるだろう。
Credit: Greg Williams.
世の中で最も恐ろしいのは、
“女”である。
見方、考え方によって、どんな怪物や霊よりも恐ろしいものは、女性の怨念であることも描いている、グァダニーノ版『サスペリア』。女性によって陥れる華麗で壮絶な世界――。それはバレエ団におけるプリマ争いを描いたダーレン・アロノフスキー監督の『ブラック・スワン』や、ファッションモデル業界における生き残り競争を描いたニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』と通じるものだ。ちなみに、本作ではバレエの名門校だったオリジナル設定から、コンテポラリー・ダンスの舞踊団へと変更。劇中でもダコタ・ジョンソン演じるヒロイン・スージーも、オーディション中にバレエシューズを脱ぎ、裸足になって舞い踊る。そして、ティルダ・スウィントンの性別、年齢、人種をも超越した驚くべき怪演。すべてをさらけ出し、やがて“覚醒”していく女たちに、もはや男たちは太刀打ちできないのだ。
ルカ・グァダニーノ版『サスペリア』、
根幹はここに?!
グァダニーノ版『サスペリア』のもうひとつのテーマといえば、“時代に翻弄された男女の愛”だろう。『リリー・マルレーン』『マリア・ブラウンの結婚』で知られるライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作が思い浮かぶのは当然のこと。その一方で、『ポゼッション』『狂気の愛』など、魂と肉体を酷使して、心身二元論と変態性を描いたアンジェイ・ズラウスキー監督の影響もみられる。つまり、『サスペリア』は『13日の金曜日』のジェイソンや『IT/イット』のペニーワイズなど、キャラクター重視のハリウッド産ホラーやスラッシャームービーとは明らかに異なる、ドラマティックかつアート性の高いユーロホラーといえるだろう。
イタリアン・ホラーの巨匠からトラウマとバトンを受け継いだ同郷のグァダニーノ監督は、世界の老若男女を虜にした『君の名前で僕を呼んで』を経て、これまで誰も観たことのない崇高なホラー映画、いや芸術作品をここに完成させた。“新たに生まれ変わった怪物”を、貴方はどのように向き合い、どのような評価を下すのか? すべては、禁断の153分を体感するところから始まる……。
【TEXT BY HIBIKI KUREI】