ルカ・グァダニーノがダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』のポスターを初めて見たのは10歳のとき、サマーキャンプで訪れていた北イタリアの映画館だった。「何のポスターかは分からなかった。でもビジュアルがあまりにも強烈で、頭の中でイメージがどんどん膨らんでいったんだ。毎朝、映画館の前を通るときだけは歩をゆるめ、ポスターをみつめ、じっと見入ったよ。それが『サスペリア』との出会いだ。この出会いによって、映画監督として、そして人間としての私のアイデンティティの一部が育まれた気がする」そのとき彼はまだ映画を見ていなかった。だが、彼が13歳のときのある晩、イタリアの国営テレビで『サスペリア』が放送された。映画はルカ少年の想像を遥かに超えていた「私は1人で部屋に行き、鍵をかけて、『サスペリア』を観たんだ。剥き出しの狂気、ありきたりのホラー映画とは違う異様な音楽、魔女という概念が持つ魅惑的な力。私は恐怖におびえながらも、気持ちが高揚するのを感じていた。映画の印象があまりにも強烈で、ずっと心から離れなかった。とにかく“もう一度観たい、もっとこの映画について知りたい”という一心で、公立図書館に行き、映画が公開された当時の新聞を探し出して読んだりしたよ」それからすぐに、ルカ少年はこの映画のリメイクを夢見るようになった。彼はノートに、<『サスペリア』監督:ルカ・グァダニーノ、ダリオ監督の映画から着想>と書き記した。「自分ならどんな『サスペリア』を作るかを考えはじめたんだ」こうして幼いころから映画化を夢見てきた作品をついに作りあげる時が来た。子供心に、畏怖の念を抱き、多大なインスピレーションを得てきた映画に、心から敬意を示すため、これまでの監督作で最も高い評価を受けアカデミー賞作品賞候補にもなった『君の名前で僕を呼んで』に続く作品として、ルカ・グァダニーノは『サスペリア』を選んだのだった。