本来イム・スルレは、何よりもリアリズムを大事にする監督だ。しかし、紛争の絶えないアフガニスタンへの入国は非現実的であったため、現地での撮影は難しいと考えた。美しく広大な土地を誇るアフガニスタンに似た地形があり、安全が確保でき、地元のスタッフを調達できる場所を探していたところ、ヨルダンが最適であると判断。ヨルダンには、アフガニスタンのワディラムに似た風景が広がっている。また、本作品に必要な、灼熱の太陽、荒い岩肌、都市、スラム街などの要素も揃っていた。
ワディラムは、あの『アラビアのロレンス』、『オデッセイ』、『スター・ウォーズ』シリーズなどの名作が撮影された場所でもある。ロケハンを3度行った後に、映画の8割を占める海外の撮影から始めようと決意したちょうどその頃、未曾有のパンデミックが世界を襲った。多分に漏れずヨルダンも外国人の入国を禁止した。
ヨルダン以外に適切な撮影場所が見つからなかったため、製作陣はまずは韓国での撮影をしながら、ヨルダンへの入国許可を待つことにした。しかし、韓国での撮影が終わった後も、ヨルダンへの入国は許可されなかった。仕方なく待機を続けていたところ、ちょうどいいタイミングで、ヨルダン政府から異例の入国許可が下り、特別に用意されたチャーター機でついに入国した。
しかし、入国後には隔離され、暑さで食事の安全も保証されず、時代設定に合った風景の撮影に必要な乗り物や道具を揃えるのも一苦労だった。撮影地の気温は40度を超えていたが、それが取るに足らないものに思えるほど、様々なトラブルが次々と立ちはだかった。それでもコロナと闘いながら、韓国とは全く異なる環境下で特殊効果の撮影も乗り切った。さらに、イム・スルレ監督やファン・ジョンミンは、自ら料理の腕をふるい、ホームシックにかかっていた俳優陣やスタッフに韓国料理をふるまった。このように、素晴らしいチームワークで、あらゆる困難を乗り越えたのである。
結果、どこで撮影したのか分からないほど、アフガニスタンをリアルに再現することができた。このエキゾチックな異国の風景を、韓国映画で取り上げるのは初めてのことだ。コロナ禍に突入して間もない頃に、海外での撮影を見事に成功させることができたのは、まぎれもなく撮影クルーの並々ならぬ努力の賜物である。
この作品は、どのように記憶に刻まれるかと聞かれたところ、ヒョンビンは映画のテーマである「交渉」にかけて、次のように答えた。「うまくいった交渉として記憶に残ると思う。いくつもの交渉を経て、無事に完成した作品だから」さらにヒョンビンは、ヨルダン政府との交渉、現地スタッフや俳優たちの協力、韓国でアフガニスタンを見事に再現したデザインチームなど、関係者たちの半端ない努力によって、作品が完成したことについても触れた。