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「クラフトウイスキーの今」番外編:スピリッツバイヤーのお仕事に迫る!
2023.12.18
特集
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本サイトの取材にも協力いただいている、駒田蒸留所の駒田琉生さんに代表される、ブレンダーが注目されている中、NVJでは、「スピリッツバイヤー」のお仕事にも注目。日本のみならず、世界中のウイスキーを買い付ける、株式会社信濃屋食品の秋本勇達さんにお話しを伺いました。

――秋本さんの経歴を教えてください。

秋本 1992年東京都生まれです。ウイスキーが好きで、学生時代に訪れたベンチャーウイスキー秩父蒸留所での見学がきっかけでウイスキーに関わる仕事をしたいと決めました。
ウイスキーに関する仕事を求職していく中で現在の㈱信濃屋食品に出逢い、アルバイトとして働き始め、2014年に正社員入社。店頭の販売員として、基本的な店舗業務を行いながらハードリカー部門の担当者として、お店で接客や営業を行っていました。その後、信濃屋本店とオンラインショップの勤務を経て、本社に勤務するようになりまして弊社オリジナル商品開発を担当するスピリッツバイイングチームの一員として、2017年から国内外のイベント出展業務やプライベートボトルの原酒買い付けに同行するようになりました。
2019年より信濃屋のチーフスピリッツバイヤーとして、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ、リキュールといった、信濃屋プライベートボトルを中心としたカスクの選定やアレンジメントを担当しております。

――スピリッツバイヤーとはどういうお仕事ですか。

秋本 バイヤーという職務で、弊社にて取り扱う商品の買い付けを担当しています。
私の担当している部門は、ハードリカーという蒸留酒のカテゴリーです。現在は主に、ウイスキーを扱うことが多いですが、ジンやウォッカといったホワイトスピリッツからウイスキーやブランデー、ラムやテキーラといったブラウンスピリッツまで担当しています。
海外では色付きか色無しかでそれぞれバイヤーが分かれていることが多いのですが弊社では私がそのどちらも担当しています。
所謂市場で流通している通常品の仕入れに加えて、弊社では16年前から信濃屋プライベートボトルと言いまして、独自に現地から弊社限定で樽の買い付けを行い、小売業でありながら海外でいう所謂ボトラーズと呼ばれるような事業を先駆けて行ってきた一面がありまして、私は現在、主にその事業を担当させていただいています。最近は、酒販店でもプライベートボトルのリリースをするところが増えていますが、スピリッツバイヤーという専任の職務を設けて行っているのは特殊な例かもしれません。

――スピリッツバイヤーの職業を知ったきっかけはなんですか。

秋本 学生時代、ウイスキーに関する仕事に付きたいと思っていた時、どういった仕事があるのか、ウイスキーの専門誌やウイスキーのイベントに参加して情報を集めていました。
その中で、当時ウィスキーワールドというウイスキーの専門誌があり、そこで「ボトラーズ名鑑」という日本のボトラーズ*を特集している記事があったのですが、インポーターでなくても、酒販店で独自オリジナルボトルをリリースしている会社があり、(それが現在勤めている弊社株式会社信濃屋なのですが)、自分の感覚を頼りにカスクを選定してオリジナルで販売する、スピリッツバイヤーという仕事があるということを知りました。
その記事に出ていた当時のスピリッツバイヤーの方が写真で見た時に若い方という印象を受けまして、当時ウイスキー関連の記事を調べていると、名前をよく聞く方やお会いする方は貫禄がある長い実績を積まれていた年配の方々が多かったのでとても印象的でした。
たとえ若くても実力やはっきりとした志があれば、重要なポストを任せることを認めてくれる会社なのだと思って、当時強く惹かれたことを覚えています。

――どうやってスピリッツバイヤーになりましたか。

秋本 僕も正直、どうやってなることが出来たのかよくわからないのですが、運と御縁が大きかったと思います。
経歴のところでも少し触れているのですが、信濃屋でのキャリアとしてはアルバイトからのスタートでした。本社の代表電話に電話をかけ、ここで働きたいと伝えました。あまり常識的ではないと我ながら思っていましたが、熱意が伝わったのかアルバイトの面接を取り付けてくれました。当時電話を取ってくれたのが当時総務を務めていた現社長でした。
アルバイトでの登用が決まり、お店でお買い物をして頂いたお客様への配達をしたり、店の掃除をしたり、試食用のチーズを切ったり、そういった所謂今のバイヤーの仕事に関係しない下積みの仕事から始めました。目の前の仕事を一生懸命やりながら一つずつ、毎日出来ることを増やしていく。次第に出来る仕事が増えていって、仕事を通じて様々な出逢いが増え、仕事が評価されていき、正社員に登用してもらえました。下積みから始めたということが自分に自信を与えることにも繋がっていると思います。
それから、その時々の職位や年代の時に様々な素敵なご縁を頂きました。経験値を積ませてくれようといいお酒を飲ませてくれた熟練の飲み手の方々や、頻繁にお店に足を運んでお話をしてくれたお客様たち、大きな背中を見せてくれた先輩方や同世代の熱意ある同業者の方々と出会い、一緒に関わせていただくことで自分自身が磨かれ、成長させて頂きました。今では世界中にウイスキーを通じて認め合える友人や仕事仲間が増え、ウイスキーを好きでよかったと思います。
バイヤーとして働かせて頂いている現在もそうですが、まずは一つ一つ目の前のことに一生懸命に取り組むことが大事だと思います。これは登山からの教訓ですが、愚直に自分の足を進めることでしか、目の前見えている頂を踏むことは出来ません。ウイスキーもそういうお酒だと思っています。
配達の三輪バイクを引いていた時の過去の自分に恥ずかしくないように、自分がどこから来たのか忘れず、出逢った方々とより一層良い仕事を繋げていきたいと思っています。

――仕事を通して好きになったお酒やお酒の飲み方はありますか。

秋本 ウイスキーで言うと、ストレート(ニート)だけでなく、水割りやソーダ割、お湯割り、ロック、ハーフロック、トワイスアップといった四季や食べ物、環境、その時の自分の気分に応じて、飲み分け出来るところが気に入っています。これほど多様なアプローチでウイスキーと向き合っているのは実は日本特有の文化で日本人ならではの付き合い方です。
日本の内も外も知ることでこの繊細な感覚の価値を再認識することが出来、自然に我々が持ち得ていることを少し誇らしく思います。

飲み方は、普段BARでお酒の魅力を伝えくださっているバーテンダーさんに教えていただくときもありますし、蒸留所の生産者やお客様に新しい魅力を教えてもらう時も楽しいです。ボトルの数×人の数だけ発見があるので毎回新しい発見があります。

ウイスキーだけでなく他の分野や事柄でもきっと同じようなことがあると思いますが
もう自分ではそのお酒のことをよくわかっているつもりであったとしても、違う飲み方、違う人、違う環境で飲むことで新しい感じ方や違う表情に気が付いたりすることがあるんです。
きっと映画とかでもそうだと思うのですが、何度見ている映画なのに、ある時ふっと登場人物の表情に別の意味があることを知るみたいな経験と近い感覚で、そういう陽の当たり方の違いで見えなかったものが見えてくるみたいなことがウイスキーの世界でもあると感じています。
以前はウイスキーの香味が閉じてしまうと敬遠していた時期もある「ロック」の飲み方も今では結構好きで、家でゆっくり映画を見るときや友人や家族とくつろいで話に集中したい時に好んで飲むようになりました。

――スピリッツバイヤーとして気を付けていることは何ですか。また、習慣的に行っていることはありますか。

秋本 生産者の方の本拠地や蒸留所にはなるべく直接訪問して自分の五感で印象を捉えるようにしています。場所の自然環境であったり、バックボーンであったり、そこで働く従業員の方であったり、つくりへの姿勢や資材や技術的な箇所等、直接訪れることでより深く理解することが出来ると感じている為です。
また、出来るだけBARに行くようにしています。自分のリリースさせて頂いたボトルがどういった評価を得ているか反応や感想を頂いたり、今何が人気なのか市場の趣向を探ることもそうですし、飲んだボトルから今後リリースとして見つけたい香味のヒントが隠れていることもあります。また、酒場は情報が集まる場所なので情報収集の為にもとても役立つので出来る限り足を運ぶようにしています。

――海外などにもよく行っていらっしゃいますが、どういうことをしていますか。

秋本 英国やスコットランド、ヨーロッパを中心に、弊社プライベートボトル向けに現地でのテイスティングをし、樽の買い付けや選定をしています。そこで選定したウイスキーを信濃屋プライベートボトルとして販売しています。 また、日本の市場のレベル高さを伝える為に海外のイベントにも出展しています。
愛好家の間では有名なリンブルグウイスキーフェスティバルといった、海外のウイスキーフェスティバルからブース出展のオファーを受け、弊社向けのプライベートボトルを通じて、現地の方々とコミュニケーションや試飲、直接訪問した蒸溜所であればどういった蒸溜所でどんなウイスキーづくりをしているか等、日本のBARや市場のレベルの高さや文化を情報発信しています。そういった活動の一環として、マスタークラスと呼ばれるセミナーの講師を務めることもあります。

――今回のコラボボトルの選定で気を付けたりこだわったことがあったら教えてください。

秋本 最初にご協力頂いた蒸溜所の皆様のそれぞれの個性を尊重した樽選びを行いたいということが気持ちとしてありました。
今回ご協力頂いた五ヶ所の蒸溜所の皆様には、直接訪問させて頂いたことがあるのですが、それぞれの蒸溜所に独自の姿勢や製造方法、ウイスキーのスタイルがあります。ウイスキーは、嗜好品且つ答えに時間のかかる飲み物なので、所謂正解というものがありませんし、それぞれの信じる旗を掲げながら時の試練に耐えて行かなければなりません。

選定させて頂いたウイスキーについては、映画を見てウイスキーを飲みたくなった方でもウイスキーの世界に入っていくことが出来るもので、ウイスキーの愛好家の方が飲んでも納得してもらえる品質であることが本企画において重要になると考えていました。

今回のコラボボトルが基本的に各蒸溜所の「シングルカスク」の方向へ決まっていく中で、映画からウイスキーを好きになっていただける方への入口の商品としてはややハードルが高くなってしまいましたが、本来求められているであろう、クオリティキーパーとしての役割を果たすべきだと思い、今回は普段弊社向けの樽選定の時とほぼ同等の基準でカスクを選定しました。複数の樽原酒の中から選定をする時は、ブラインドで予備情報を見ないで感覚優位で行うこともありました。幸い、それぞれの蒸溜所様から本企画の為に個性豊かで良質なカスクを特別にご用意頂き、無事選定を行うことが出来ました。

3年物といった比較的若い原酒については、味わいとして、持っているポテンシャルをあらかじめ開かせる意味とウイスキーの口当たりの角を丸める為に少し加水を行って工夫させていただきました。
また、マニアックな視点にはなりますが、三郎丸がアイラ島のピート麦芽使用、駒ヶ岳が内陸系ライトピーテッド、そして長濱がノンピート麦芽使用でアイラカスククォーター樽熟成とそれぞれ異なる由来のピートスモークを感じることが出来る三種類のシングルカスク構成になっています。

――仕事をしていて達成感を感じるのはどんな時ですか。

秋本 この仕事を通じて、お客様に喜んで頂いた時はとても嬉しいです。
あとは自他共に認める品質の仕事が出来た時です。多分自分自身が一番自分の仕事に厳しい監督者で、バイヤーはある程度そういう気質が求められる仕事だと思うのですが、自分で自分を褒められるような仕事が出来た時にはかなり満足感があります。

――ありがとうございました。

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