2019.09.30 POSTED

来日ジャパンプレミアレポート

9月26日(木)、ジュリアン・シュナーベル監督とゴッホを演じた主演のウィレム・デフォーの来日を記念して、ジャパンプレミアを実施しました!
大勢の観客が集まる中、登場したジュリアン・シュナーベル監督とウィレム・デフォー。「ARIGATO!ご来場いただきありがとうございます。ゴッホは日本に来たがっていたので、私が代わりに来ました。(隣にいるデフォーを指しながら)ある意味でゴッホを隣に一緒に連れてきています。麦わら帽子をかぶっていませんが。(笑)そして、妻のルイーズを紹介させてください。美女と野獣ですね。私は30年前に日本に来たことがあります。世田谷美術館で展覧会があり、それで来日しました」とシュナーベル監督が挨拶し、会場を沸かせた。「この作品をみなさんと分かち合えて嬉しいです。映画のプロモーション以外では日本に来ていましたが、特にこの作品で来られて嬉しく思います」とデフォーが挨拶をし、ジャパンプレミアはスタートした。

ゴッホをテーマに作品を撮るきっかけを尋ねられると、「作らずにはいられなかったんです。ゴッホについては既にたくさんの映画が作られていたので、最初は作りたくなかった。もう必要ないと思ったんです。でも、必然的にやらなければならないということに気づきました。彼(ゴッホ)の作品は純粋なものに至る乗り物で、妥協が一切ない。それが芸術の本質だと思います。“それをやりたい”という欲望だけ。この映画を作るプロセスの中で、アートを作るプロセスについての映画を作りました。絵画であれ、演技であれ、映画であれ、自分たちそのものを芸術に差し出します。皆さんは映画をご覧になって、ゴッホについての映画だとは思わないでしょう。この作品はみなさんご自身の映画であって、ゴッホを見る映画ではありません。それがこの映画を作るのに十分な理由でした」と監督は力説。

また、デフォーがゴッホを演じたことについて尋ねると、「僕とジュリアンは長年の友人です。彼からオファーを受け、絵を描かねばならないことや、実際にゴッホがいた場所で撮影できることも知りました。絵を描くシーンは吹き替えではなく、自分で描いているんです。この映画ではジュリアンに絵を描くことのプロセスを教えてもらって、ものの見方が変わり、それが役作りの核になりました。(30も離れているゴッホと自分との)年齢差のことは全く考えませんでした」とデフォーが答えると、「僕も全く考えなかったよ」と監督も賛同した。

シュナーベル監督の現場の様子に関しては「先ほどはものの見方が変わったと言いましたが、光を描くということを教わりました。1つずつ、筆を使って、筆跡を重ねていくと、その筆跡がお互いに振動しあって、語りあい始める。そこから何かが生まれてくる。絵を描くことは印を重ねていくものだと知った。それからはものを見たときに形状ではなくて、光を見るようになりました。実際のゴッホがいた風景に身を置いて、風景を見ながら、ゴッホとはどんな人だったのか、その体験を表現したものがこの映画になっています。」とデフォーが振り返った。

デフォーにゴッホ役を依頼した理由については、「ウィレムは素晴らしい役者で、信頼している人。彼みたいな人は必要ですが、なかなかいません。彼とは30年来の友人で、お互い頼りにしているので、信頼を持って作り上げることができました。彼は自分を失望させることはしませんでした。同時に、私には責任があると思いました。このテーマを扱うのであれば、彼にはこういうことができる、と見せるのが私の責任だと思いました。それをやっていく中で、彼が見たことのない人に変身したのです」と話しながらも、「映画を見るよりも重要なことがありますか?」と付け加え、映画を早く観客にみせたい様子。

ここで特別ゲストのリリー・フランキーさんがゴッホの作品「ひまわり」を連想させるような黄色い花束を手に登場!デフォーとシュナーベル監督に渡した。「リリーといいます。本当に僕の尊敬するお二人と、皆さんにお伝えしなければならないのですが、今日花束を持ってきたのが、女優さんじゃなくてすみません」と観客にあいさつをし、会場を沸かせた。

シュナーベル監督と、デフォーの印象を尋ねられると、「僕も監督の作品たちからものすごく影響を受けていますし、デフォーさんの映画はいつも、役者を超えた人間の可能性を教えてくれます。なので今日は本当に嬉しいですし、最近は家で寂しい生活をしているので、今日はお二人に会えて、ゴーギャンがゴッホのいるアルルに来てくれた時のような気持ちです」と、映画に絡め話し、監督とデフォーも嬉しそうな様子。 そんなリリーさんにシュナーベル監督は「『万引き家族』は本当に素晴らしかったです」と絶賛。謙遜するリリーさんに、「褒め言葉を素直に受け取るのは大変だと思いますが、私はそんなに軽々しく言う人ではないですよ。深い演技でした」とさらに称賛した。リリーさんは「そう言ってもらえて本当に嬉しいです。日本人は美術館によく行く民族ですが、印象派や、とりわけゴッホはみんな好きだと思います。映画を見たのは3日前ですが、未だに映画の中から出てこれないというか、今でもゴッホの絵の中にいるのか、ゴッホの目線の先にいるのか、わからないです」と作品について話すと、監督も「よく分かります。だからここに来て、日本の方と映画を見たかったんです。この映画すでに何回も見ていますが、絶対に今日日本の皆さんと映画を見たかったんです」と、意気投合した様子。

MCからリリーさんも「絵を描いていらっしゃいますが…」と話を振られると、「監督の前で僕の話、しないでください!俺おでんの絵を書いているだけですから!」と慌てた様子で会場の笑いを誘いつつも、「ゴッホは色々な画家の中で一番知っているつもりだったんですが、お二人のゴッホを、お二人の目を通して見ることができて。デフォーさんが日の出を待ってスケッチに出かけるシーンの微笑んだ顔が、ゴッホの寂しいエピソードを救ってくれました」と言うリリーさんに、「本当に美しい言葉で、ずっと聞いていたいです」とにこやかなデフォー。監督も「そこは特に重要なシーンで、私はゴッホはかわいそうな人だとは思っていないんです。あの瞬間、ゴッホはまさに自分のいたい場所にいたんだということが分かります。誰にとってもあの瞬間を見つけるのは難しいです。ここで、妻のルイーズに感謝しなければならない。あの場所に連れて行ってくれたのがルイーズなんです」と客席にいた妻に感謝を述べ、会場からも拍手が起こった。そんな話を聞いていたデフォーは感激しつつ、「自分のお葬式にいるような気持ちになってきました」と話し、会場の笑いを誘った。

最後にシュナーベル監督がリリーさんに「私も年中映画を作っているわけではなく、最後に映画を作ったのは7年前でしたが、もし映画をまた作る機会があれば、是非ご一緒したいです。」とラブコールを送り、リリーさんも「毎日長生きするように心がけますね」と返し、イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。