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introduction

台風の夜に、偶然ひとつ屋根の下に集まった〝元家族″。
夢見た未来と、少しちがう今を生きる大人たちへ贈る感動作。  世界に愛される是枝裕和監督が、特別な思いを込めて2016年初夏に送り出すのは、〝なりたかった大人″になれなかった大人たちの物語。
主演に迎えたのは、今や国民的名優となった阿部寛。叶わぬ夢ばかり追い続ける情けない男・良多を、ときに可笑しく、ときに切なく、チャーミングに演じる。そんな良多に愛想を尽かし、一人息子と共に家を出た元妻に真木よう子。そして、良多の人生を穏やかな眼差しで見つめる母に樹木希林。さらに、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、橋爪功ら豪華キャストが揃った。主題歌と音楽を手がけるのは、カリスマ的人気を誇るハナレグミ。彼の楽曲が本作に深みと温かさを加える。
 台風の夜に集まった元家族。嵐が去れば、またそれぞれの日常に戻ると分かっている彼らの想いが交錯し―。“海よりもまだ深い”人生の愛し方を教えてくれる、心に沁みる感動作が誕生した。

story

嵐が去れば、それぞれの日常に戻ると
分かっている彼らの想いは交錯し―。 笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多(阿部寛)。15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家で、今は探偵事務所に勤めているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳している。元妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ、息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに、彼女に新恋人ができたことにショックを受けている。そんな良多の頼みの綱は、団地で気楽な独り暮らしを送る母の淑子(樹木希林)だ。ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真悟は、台風のため翌朝まで帰れなくなる。こうして、偶然取り戻した、一夜かぎりの家族の時間が始まるが―。

cast

[作家崩れの探偵]良多(阿部寛) [良多の元妻]白石響子 (真木よう子) [良多の姉]中島千奈津 (小林聡美) [良多の務める興信所所長]山辺康一郎 (リリー・フランキー) [良多の部下]町田健斗 (池松壮亮) [良多の息子]白石真悟 (吉澤太陽) [淑子の音楽の先生]仁井田満 (橋爪功) [良多の母]篠田淑子 (樹木希林)

staff

原案・脚本・監督・編集 是枝裕和 Kore-eda Hirokazu 原案・脚本・監督・編集 是枝裕和 Kore-eda Hirokazu 1962年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。14年に独立し「分福」を立ち上げる。主なTV作品に、「しかし・・・」(91/CX/ギャラクシー賞優秀作品賞)、「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91/CX/ATP賞優秀賞)などがある。95年、初監督した映画『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。続く『ワンダフルライフ』(99)は、世界30カ国、全米200館で公開される。04年の『誰も知らない』では、主演を務めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で映画祭史上最年少の最優秀男優賞を受賞。その後、『花よりもなほ』(06)、ブルーリボン賞監督賞を受賞した『歩いても 歩いても』(08)、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された『空気人形』(09)を手がける。11年、『奇跡』がサンセバスチャン国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。12年、初の連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(KTV/CX)で脚本・演出・編集を務める。13年、福山雅治を主演に迎えた『そして父になる』が大絶賛され、カンヌ国際映画祭審査員賞他、国内外の数々の賞に輝き大ヒットを記録。15年には綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが4姉妹を演じた『海街diary』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品、さらに、本年度日本アカデミー賞でも作品賞、監督賞を受賞。
主題歌・音楽 ハナレグミ(永積 崇) Hanaregumi(Nagazumi Takashi) 1974年11月27日生まれ、東京都出身。高校2年の頃よりアコースティック・ギターで弾き語りをはじめ、97年、SUPER BUTTER DOG でメジャー・デビュー。 02年、ソロ名義で、はっぴいえんどのトリビュート・アルバム「HAPPY END PARADE~tribute toはっぴいえんど~」に参加し、同年夏よりバンドと併行してハナレグミ名義でソロ活動をスタート。02年11月にリリースした1stアルバム「音タイム」以降、「日々のあわ」(04)、「帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。」(05)、「あいのわ」(09)、「オアシス」(11)とアルバムを発表し、13年5月には、多彩なゲストミュージシャンを迎えての初のカバーアルバム「だれそかれそ」を、15年には6thアルバム「What are you looking for」をリリース。映画では、SUPER BUTTER DOGの代表曲をタイトルにした『サヨナラCOLOR』(05/竹中直人監督)のエンディング・テーマで忌野清志郎氏とのデュエットを披露している他、サントラも担当。『エンディングノート』(11/砂田麻美監督)でも主題歌「天国さん」とサントラを担当している。 撮影 山崎 裕 Yamazaki Yutaka 1940年生まれ、東京都出身。63年、日本大学芸術学部映画学科卒業。長編記録映画『肉筆浮世絵の発見』(中村正義・小川益夫共同監督)にて24才でフィルムカメラマンとしてデビュー。その後、記録映画、CM、TVドキュメンタリーなどで活躍。99年公開の『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)で初めて映画を手掛け、以降『DISTANCE/ディスタンス』(01)、『誰も知らない』(04)、『花よりもなほ』(06)、『歩いても 歩いても』(08)、『大丈夫であるように―Cocco終らない旅―』(08)、『奇跡』(11)、「ゴーイング マイ ホーム」(12/CX)など多くの是枝監督作品を担当。10年公開の『トルソ』では初監督も務めた。その他の代表作に、『沙羅双樹(しゃらそうじゅ)』(03/河瀬直美監督)、『カナリア』(05/塩田明彦監督)、『ハリヨの夏』(06/中村真夕監督)、『恋するマドリ』(07/大九明子監督)、『たみおのしあわせ』(08/岩松了監督)、『俺たちに明日はないッス』(08/タナダユキ監督)、『2つ目の窓』(14/河瀬直美監督)、『断食芸人』(16/足立正生監督)など。今後の公開作には『永い言い訳』(16/西川美和監督)がある。

production note

原案、脚本が生まれるまで
 原案・脚本共に是枝裕和のオリジナルである本作『海よりもまだ深く』の撮影がスタートしたのは2014年5月。四季を通して撮影された前作『海街diary』の春編と夏編の間隙を縫って、約1ヵ月半にわたり撮影が行われた。是枝監督の本作の着想は2001年までさかのぼる。
「父が亡くなって、団地でひとり暮らしを始めた母の元へお正月に帰った時に、いつかこの団地の話を撮りたいなあ、と思いました。最初に浮かんだのは、台風の日の翌朝、芝生が綺麗になった団地を歩く風景です。子どもの頃、僕も落ちている木の枝を拾いながら通学した記憶があって、台風が通り過ぎた後の団地が美しかったのを覚えています」
 そこから台風の日の夜、団地で起きる出来事を中心にした家族の物語が構想された。脚本の執筆に取り掛かったのは2013年夏のこと。『海街diary』の脚本に取り組みながら、「今なら書ける」と思い立った是枝はすぐさま執筆を始め、早々に第1稿を完成させる。脚本の1ページ目にまず書かれたのは次の言葉だ。
「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」
 本作の主人公、良多は作家としての成功を望みながら、リサーチと称して興信所で働いている。結婚し、子どもを得ながら、好きなギャンブルをやめることができず、家庭を崩壊させてしまった。仕事でもプライベートでも、彼はかつてイメージしていた自分の姿と異なる人生を送っている。「こんなはずじゃなかった」。そう考えているのは、良多だけでなく、本作に登場する他の人々も同じだ。
「どうしようもない現実を抱えながら、夢をあきらめることもできず、だからこそ幸せを手にできないでいる。そんな等身大の人々の今に寄り添った話です」
当初のアイディアにさまざまなモチーフが折り重なって、夢見た未来と違う、今を生きる人たちのドラマが生み出された。
キャスティングについて
脚本を書き始めた時から、主人公の良多役、母の淑子役として是枝の頭の中にあったのは阿部寛と樹木希林のふたりだ。彼らが初めて是枝作品に出演したのは、やはり親子役を演じた2008年公開の『歩いても 歩いても』。以来、ふたりは是枝が作り上げる“家族”の一員にたびたび扮してきた。阿部に良多役を依頼した理由について、是枝は「他の人にお願いする発想がまったくなかった」と語る。
「だから脚本も阿部さんの声を思い浮かべて書いています。ダメ男と言える良多をあそこまでダメな感じでやってくださって(笑)、本当に素晴らしかったです」
 一方、阿部は良多のダメな部分を「人間味」としてとらえたと言う。
「虚勢を張ったり、強がったりするけど、本当は弱いんです。いつまでも夢を追いかけている良多の甘えを、人間味として出せたのではないかと思います」
『奇跡』以降、すべての是枝作品に出演している樹木は、今や是枝作品、ひいては日本映画になくてはならない女優のひとりだ。「樹木さんがOKしてくれなければ、この作品は撮らないつもりでした」と是枝は打ち明ける。
「役者としても人間としても、あれだけ存在に説得力のある人はいません。撮らせてもらいながら、いつも学ぶことが多く、それが自分の財産になっている気がします」
 樹木もまた、はや9年近い付き合いになる是枝に全幅の信頼を寄せている。その監督評が面白い。
「あれほど感性豊かな人って、普通はもっとエキセントリックになるものだけど、是枝さんはぼやーんとした感じ(笑)。才能ですね。人柄も才能だと思います」  良多の元妻である響子を演じるのは、『そして父になる』にも出演した真木よう子だ。
「『そして父になる』を撮影して、もっと真木さんを撮ってみたいという気持ちが残ったんです」と話す是枝に対し、真木は「是枝監督の現場には不思議な安心感があります。今回も自分が自然でいられる現場でした」とその思いを語っている。
 さらに、『そして父になる』『海街diary』に続き是枝作品3作目となるリリー・フランキー、『奇跡』に続き2作目となる橋爪功など実力派が脇を固める。
良多の姉・千奈津に扮した小林聡美は今回が初の是枝作品だが、是枝は「こちらが言葉にしなくても、いろいろなものを感じとってくれる人。初めてとはとても思えない安心感がありました」と、撮影で共有した時間を振り返る。良多と同じ興信所で働く町田を演じた池松壮亮も、是枝作品への出演はこれが初めてだ。「すべての役柄がそうですが、町田も池松くんの出演が決まってからあて書きしました。町田の笑顔に良多は救われてますよね」。
そして、良多と響子の一人息子である真悟を演じた吉澤太陽。子役の演出に定評のある是枝監督のもと、大人たちの間で翻弄されながらも健気に、そしてマイペースに生きる姿を伸びやかに演じている。
これまでの是枝作品を彩ってきた俳優たちに初参加の顔ぶれが加わって、これ以上ないキャスティングが実現した。
団地での撮影について
 淑子が暮らす団地の撮影は、是枝が9歳から28歳まで実際に住んだ東京都清瀬市の旭が丘団地で行われた。現場には当時の是枝を知る住人が祝福に駆け付けたり、様子を見にきたりするなど、ちょっとした凱旋ムードも漂ったと言う。
「なりたいものになれなかったのは団地も同じなんですよね」
 是枝がそう話すのは、かつて憧れの集合住宅として全国に建てられた団地が、老朽化や住人の高齢化といった問題を抱え、今や当初のイメージと異なる状況に直面しているからだ。是枝はそんな団地のたたずまいを、なりたいものになれなかった登場人物たちの切なさと重ね合わせ、郷愁と共に映している。
 市井を生きる人たちの日常を描く筆致は『歩いても 歩いても』と共通するが、団地を舞台にした物語はより等身大な視点からとらえられた。
「『歩いても 歩いても』は実家が開業医で、経済的にもゆとりがあるので、どこか小津(安二郎)っぽいかもしれません。でも今回の世界観は、団地が舞台であることも、登場人物の生活感も、色合いがくすんでいて成瀬(巳喜男)に近い気がしています」
ハナレグミの音楽・主題歌と、テレサ・テンの挿入歌
 タイトルの『海よりもまだ深く』は“アジアの歌姫”と呼ばれ日本でも人気を博したテレサ・テンが1987年にリリースしたシングル曲「別れの予感」の一節から取られている。
「僕の家はよく歌謡曲が流れている家だったので、「ブルー・ライト・ヨコハマ」の一節から『歩いても 歩いても』と名付けたように、昭和歌謡のワンフレーズをタイトルにしたいと思っていました。テレサ・テンの歌は団地住まいの主婦たちが秘かに憧れるドラマティックな恋愛を歌ったものが多いですよね?そんなところも“みんながなりたかったものになれるわけじゃない”というコンセプトにつながっています」
 そして本作の音楽、主題歌を担当するのは永積崇によるソロユニット、ハナレグミだ。是枝がハナレグミと出会ったのは、是枝がプロデュースした砂田麻美監督作品『エンディングノート』にその楽曲を使用した時。
「脚本を書いている時から仮の音楽としてハナレグミの曲をずっとBGMにしていて、迷わず今回の音楽をお願いしました」
ある場面ではアコースティックで素朴な音が、ある場面ではユーモラスで猥雑な音が、物語の情感を際立たせる。『海街diary』で音楽に対する新たなアプローチをみせた是枝にとって、本作の音楽もまた新しいチャレンジとなった。

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