About the movie
パリで暮らす10歳の少女クレムが屋根裏で見つけたのは、生まれたばかりのキジトラの子猫。母猫とはぐれた子猫を、ルーと名付けて一緒に暮らし始める。両親の不仲に心を痛めていたクレムにとって、ルーとの生活は心安らぐ時間となっていく。そんなある日、森の別荘を訪れたクレムとルーだったが、森である出会いが――。
監督・共同脚本
ギヨーム・メダチェフスキ
インタビュー
インタビュアー
ジョゼフィーヌ・ルバール 2022年12月
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Q:企画を引き受けたとき、動物の甘ったるい姿に夢中になる現象については考えましたか?
“カレンダー症候群”とも表現されますが。最初から、デレデレした映画にするつもりはなかった。だから原作にある厳しい面を残したんだ。猫がネズミを殺す場面は、本の描写に忠実に従った。動物がいかに残酷かを感じるだろう。それでも現実を語る必要がある。映画館を出る観客に、嘘くさい映画だったと言われたくないんだ。猫がどんな動物なのかを語りたかった。つまり、彼らは可愛い時もあれば、狩りをする捕食動物として、獲物を弄ぶ時もあるとね。朝は庭で鳥を殺しながら、夜にはソファでゴロゴロ喉を鳴らすような動物なんだよ!猫が自由だということを子どもたちに理解してほしかった。そして、その自由をどう生きるか決めるのも猫なんだとね。
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Q:『アイロ〜北欧ラップランドの小さなトナカイ』でもそうでしたが、あなたは見応えのある景色を背景に映画を撮影していますね。本作の撮影は、都市部周辺やフランス国内の森林地域など観客になじみのある環境でした。
より“日常的な”環境での撮影は、あなたにとって挑戦でしたか?アフリカやラップランドは背景としては見応えがあり、観客に自然の魅力を伝えられる。大げさな言い方だけど、“録画”ボタンを押すだけでいい。人々が生活している環境を美しく見せる方が大変だ。離婚や動物を失うことも、多くの人が経験する出来事だ。だからこの映画で、私は安全な環境から踏み出したと言える。物語に入り込み、“何を撮りたいのか?”と問い続けることが本質なんだ。『アイロ〜北欧ラップランドの小さなトナカイ』の上映劇場で、ある母親が上映後に私の元にやってきて、こう言った。「ありがとう。あなたは私の子どもの成長に一役買ってくれた」。私も同じように、どうすればルーが子どもの成長を後押しできるか考えていたんだ。
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Q:『ルー、パリで生まれた猫』は、人が誰かに従属しないことを表現しています。ましてや猫は……。
私はどこかに所属するという考えに否定的なんだ。定住という考えも好きじゃない。“隷属”とか、“束縛”とかもね。だから私は猫が好きなんだ!でも、共有したり、交流したり、話を聞いたりはできる。他人に依存しなくてもいいんだ。大切なのは、分け合い、観察することなんだ。
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Q:ルーを演じる猫たちをどうやって見つけたのですか?
動物トレーナーのミュリエル・ベックが、動物愛護協会、農場などを探しまわってくれた。広告を利用して、本当にあらゆる場所で探したんだ。私はキジトラの子猫を希望していたから、彼女の負担はさらに大きくなった。つなぎの部分は大変だった。途中で猫を変える場合、縞模様が同じに見えなければならないからね。でも白猫には難聴の可能性があると言うし、黒だと表情が分かりづらくなってしまう。結局、ルーは4匹いたけど、そのうち1匹が安定していたから、80%はその猫で撮影した。その猫とは確かな関係を築いた。生後2か月半の時にやってきて、スポンジのように多くのことを吸収した。私たちと一緒に撮影現場で成長したんだ。唯一の難点には、現場に入ってから気づいた。私には猫アレルギーがあったんだ。猫が5、6匹いたら、途端につらくなる。だからある意味、新型コロナウイルスには救われた。マスクを着けての撮影だったからね!
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Q:本作で少女を演じたキャプシーヌ・サンソン=ファブレスはどうやって選んだのですか?
キャスティング・ディレクターが選んだ約800人のうち、紹介されたのは150人から200人だった。カメラテストでは、典型的な女の子をたくさん見たよ。お姫様のような“いかにも選ばれそうな”女の子たちだ。一緒に脚本を書いたミカエル・スエテは、クレムのイメージとして『リトル・ミス・サンシャイン』(06)の少女をあげていた。個性的な反逆児という感じのね。カメラテストで、私は課題を1つ出したんだ。ある場所にクロワッサンを置き、前にはバスケットを置いた。クロワッサンを猫、バスケットを壁に見立てたんだ。テスト参加者に、猫に対して壁の反対側に立つように言って、想像させたんだ。外に出たがっている猫を引き止めるために何と言うかをね。キャプシーヌだけがこう言ったんだ。「猫は出たがっているのに、なぜ止めるの?」彼女は物語の中に入り込むだけでなく、クロワッサンとバスケットを使って感情をかき立てることもできたんだ!
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Q:撮影で最も難しかったのは?
クレムと猫の間に存在する、ある種の共犯関係を感じさせることかな。彼らが互いに共生している雰囲気を出す必要があった。1人の子どもと1匹の猫には、多くの共通点がある。でもそれをどうしたら表現できるだろうかとね。
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Q:過去の名作にならった場面が散りばめられていますよね……。
もちろん、鶏小屋の場面は『ジュラシック・パーク』(90)への目配せだ。特にティラノサウルス・レックスが食堂に入るところだね。それから猫が人形の後ろに隠れるところは、明らかに『E.T.』(82)を連想させる。私はスティーブン・スピルバーグやティム・バートンの大ファンなんだ……。観客が元ネタの映画を当ててくれたら嬉しい。私はそうした映画に育てられたからね。
動物トレーナー
ミュリエル・ベック
インタビュー
インタビュアー
ジョゼフィーヌ・ルバール 2022年12月
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Q:あなたの職業を知らない人には、どのように自己紹介しますか?そして、仕事をどう分類しますか?動物トレーナー?
「Imprégnatrice」(※)は最近の言葉ね。私はむしろ動物の演出家と言いたいの。私の仕事は、動物に準備をさせて、撮影できる状態に仕上げること。子役の指導者と同じね。動物の習性を考慮しながら、慣れない環境で与えられた役を演じられるよう、管理するの。これは現代社会が促すこととは逆の価値に基づく仕事。つまり、忍耐や謙虚、尊敬などが重要なの。深い愛情も必要ね。何もかもコントロールしようと上に立ってはダメ。そうした立場から離れなければならないと思っているの。
※:Imprégnatrice 訳註:浸透、受胎、感応遺伝などの意味のある「imprégnant」(英語はimpregnation)を「〜させる人」の形に変化させた語
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Q:どんな動物でもカメラの前で演技ができるのですか?
ええ。中にはより映画向きの動物もいるけどね。私はアリやハエを演出したこともある。種に関する知識があり、適切な扱い方ができれば可能よ。
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Q:ルーを演じた猫を見つけたのはあなたですね。どのような経緯でしたか?
厳しい制約がいくつもあったけど、その中にキジトラ猫という条件があったの。やっとの思いで個人の家で見つけたの。なぜあの猫を選んだのかって?感覚的な問題だから、説明できないけど…。最も難しいのは、喜びや驚きの感情を表現させることね…。ネコ科動物の感情は、例えば犬と比べても読み取るのが難しいの。犬は目を細めたり、耳を動かしたりするけどね…。それに対して猫は、それほど感情を表現しない。それが監督と私の共通の課題だった。とても繊細な仕事だったから、実験的だったともいえる。金細工職人の仕事さながらね!まさにすべてが冒険だった。「ルーが森に呼ばれるのを感じている演出は?」「恋に落ちた場合は?」ってね。
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Q:どのように動物を演出するのですか?
刺激を与えて、自然な行動を促すの。猫は家畜に分類される動物だから難しい。でも私は、野生動物だと思って取り組む。つまり、動物を飼い慣らすとは、どういうことか?人間の役に立つ動物として選ばれたとしても、野生動物なのは変わらない。確かに猫の品種を作り出したのは人間。でも行動の観点から見ると、ネコ科の動物が人間との交流で変化したことはなかった。人間は穀物の保存のために猫を仲間にしたけど、猫の役割は古代エジプト時代から発達してないの。例えば“番猫”なんて存在しない。人間と関わっても変わらぬまま、自由な個として残った。事実上のボスは彼らなの。愛撫を望めば求めるし、気が向けば私たちを認めてくれる……。
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Q:そんなに難しい動物とどのように仕事を進めたのですか?
映画の錬金術と魔法ね。印象派の絵のようとでも言うのかな。キャンバスはさまざまな絵の具が塗られることで生きるけど、映画も同じ。撮影チームのみんなが頭をひねることで完成するの。それぞれが自分の持ち場で力を尽くした。例えば猫が目配せする時は、監督はその瞬間を捉える準備を整えておく必要がある!また動物は、すばらしいサプライズを与えてくれることもある。ぬいぐるみがたくさん出てくるシーンは、非常に簡単に、ごく自然に撮影できた。猫はじっとしたままだった。理想の世界で見る完璧な夢のようで、それもほんの一瞬でできたの!
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Q:俳優と動物の関わり方も指導したのですね?
ええ、動物たちには共演者がいるから。キャプシーヌと猫の関係性を築くのが重要だった。でもそれを完全に達成することも「猫は彼女の最高の親友になる」などと言うことも不可能だ。彼らが一緒にいる時間を作り、なつかせるの。コリンヌ・マシエロと犬については、それほどの仕事はなかった。彼女も犬もキャリアが豊富だったから。
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Q:特に印象に残ったシーンはありますか?
幕開けの屋根裏部屋のシーンね。そこで、どんな物語かが示される。母猫を追う子猫に強いエネルギーと欲望を感じる場面ね。鶏小屋のシーンもそう。最初はどんなシーンにするか、決まっていなかった。移動中に考えたの。鶏の動きを細かく研究した。スピード感のある単純なシーンから、より複雑なものを得られた。さらに、イノシシが走る場面では、決まったルートを正確に、一定の速度で走らせる必要があった。猪はカメラの前を嬉しそうに跳ね回ってた。少女をむさぼり食う欲望を表現するべき場面であるとはつゆ知らずにね!
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Q:ルーを演じた猫たちは、どうしていますか?
私の家にいて、今も活躍してる!『ルー、パリで生まれた猫』以降も、すでに撮影はしている。もう立派な役者と言っていいかもね。驚くことではないのよ。カメラの前で成長したということだから!
ルー キジトラ
子猫。のちに大人の猫になる。
本作の主人公
カリーヌ 白猫
ルーが恋する猫