モハマド・ラフロフ監督が母国イランを脱してまでも世界に突きつける、衝撃の問題作ついに公開。

INTRODUCTION

第77回カンヌ国際映画祭で、【審査員特別賞】を受賞した本作への12分間に及ぶスタンディングオベーションには、驚愕と感動、熱いリスペクトなど賞賛のすべてが込められていた。喝采を浴びたイラン人監督モハマド・ラスロフは、自作映画でイラン政府を批判したとして8年の禁固刑とむち打ちの有罪判決が下っていた。まさに命を懸けて本作を世界に問うため、28日間かけてカンヌの地にたどり着いたのだ。
本作は、22年に実際に起き社会問題となった、ある若い女性の不審死に対する市民による政府抗議運動が苛烈するイランを背景に、家庭内で消えた銃をめぐり変貌していくある家族をダイナミックかつスリリングに描きだす。家族に疑惑が生まれたとき、物語は全く予測不能な方向へと加速する——。一瞬も目が離せない167分。

STORY

ある日、家庭内で1丁の銃が消えた——。

市民による政府への反抗議デモで揺れるイラン。国家公務に従事する一家の主・イマンは護身用に国から一丁の銃が支給される。しかしある日、家庭内から銃が消えた——。
最初はイマンの不始末による紛失だと思われたが、次第に疑いの目は、妻、姉、妹の3人に向けられる。誰が?何のために?捜索が進むにつれ互いの疑心暗鬼が家庭を支配する。そして家族さえ知らないそれぞれの疑惑が交錯するとき、物語は予想不能に壮絶に狂いだす——。

CAST

イマン役/ミシャク・ザラ

イマン役

ミシャク・ザラ

1981年、生まれ。イラン・テヘランで演劇を学ぶ。2006年に俳優活動を開始し、イランのみならずドイツ、ロシア、オーストラリアなどで広く活躍。ラスロフ監督作品への出演は『ぶれない男』(17)に続き2度目となる。イランからの出国が禁じられ、本作が出品された第77回カンヌ国際映画祭には参加することができなかった。

ナジメ役/ソヘイラ・ゴレスターニ

ナジメ役

ソヘイラ・ゴレスターニ

1980年、イラン生まれ。俳優・監督として活躍するほか、活動家としての一面も持ち、「女性、命、自由」運動を支持する明確な立ち場を取って実刑判決を受けた。イランからの出国が禁じられ、本作が出品された第77回カンヌ国際映画祭には参加することができなかった。

レズワン役/マフサ・ロスタミ

レズワン役

マフサ・ロスタミ

1992年生まれ。テヘランのタルビアト・モダレス大学で演劇演出の博士号を取得。2010年に演劇のキャリアをスタートさせ、以来、俳優として、また演劇や短編映画の監督として多くの芸術プロジェクトに携わる。『聖なるイチジクの種』は、長編デビュー作であり、モハマド・ラスロフ監督との初共演作となる。

サナ役/セターレ・マレキ

サナ役

セターレ・マレキ

1992年生まれ。演劇大学出身。2008年に初めて本格的な演劇公演に参加し、2012年から定期的に舞台に立つ。キャリアを通じて数多くの演劇作品、短編映画、長編映画に出演している。『聖なるイチジクの種』は、3作目の長編映画出演作となり、モハマド・ラスロフ監督作品への出演は初となる。

STAFF

監督:モハマド・ラスロフ

監督:モハマド・ラスロフ

1972年、イラン生まれ。大学で社会学を学ぶ傍ら、ドキュメンタリーや短編映画で映画制作のキャリアをスタートさせる。2002年に『Gagooman』で長編監督デビューを果たし、その後『ぶれない男』(17)でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門最優秀作品賞を、『悪は存在せず』(20)でベルリン国際映画祭最高賞の金熊賞をそれぞれ受賞。世界中の映画祭で高い評価を受けている。一方、イランでは国家安全保障に反する罪によって懲役8年、鞭打ち、財産没収の実刑判決を受け、2024年に国外へ脱出。28日間かけてカンヌ国際映画祭に足を踏み入れ『聖なるイチジクの種』のプレミアに参加。本作は審査員特別賞を受賞した。

STATEMENT

声明 / モハマド・ラスロフ(2024年5月12日)

長く込みいった旅路を経て、数日前にヨーロッパにたどり着きました。

一月ほど前、弁護士から控訴裁判所で禁錮8年の刑が確定し、すぐにも執行されるだろうと知らされました。新しい映画のことが知られれば、刑期がさらに長くなるのは間違いありません。考える時間はあまりありませんでした。収監されるか、イランを脱出するか選ばなくてはなりません。私は重い気持ちで国外脱出を選びました。私は2017年9月、イラン・イスラーム共和国にパスポートを没収されています。ですから、秘密裡にイランを出なくてはなりませんでした。

もちろん、国を出ることを余儀なくされた、私に対する不当な判決には強く抗議します。しかしながら、イスラーム共和国の司法制度はあまりにも過酷でおかしな判決を下すことが多いため、そこで刑期に不服を申し立てるのが得策だとは思えません。イスラーム共和国は抗議者や公民権活動家の命を狙い、死刑を執行しています。信じ難いことですが、私がこれを書いている今も、若いラッパーのトゥーマジ・サレヒが死刑囚として収監されています。弾圧の範囲と激しさは残忍の域に達しており、非道な政府の犯罪が毎日報じられています。イスラーム共和国の犯罪装置は、絶え間なく組織的に人権を踏みにじり続けているのです。

イスラーム共和国の諜報機関が私の映画製作について情報を得る前に、なんとかイランを脱出することができた俳優も多数います。けれども、今もイランには俳優や映画のエージェントがたくさん残っていて、諜報機関から圧力がかかっています。長い取り調べを受けたり、家族が呼び出されて脅されたりした人もいます。この映画に出演したことで、彼らは起訴され、出国を禁じられました。カメラマンの事務所は強制捜査に遭い、機材はすべて押収されました。音響技師がカナダへ出国することも妨害されました。諜報機関は映画クルーの取り調べの際、私にカンヌ国際映画祭からの撤退を促すよう要求しました。クルーに対し、映画のストーリーを認識しないまま私に操られてプロジェクトに参加させられた、と丸めこもうとしていたのです。

製作中、私と仲間や友人らはたいへんな制約を受けました。それでもなお私は、イスラーム共和国政府の検閲による介入を受けない、より現実に近いストーリーを目指しました。表現の自由の制限や抑圧は、たとえそれが創造性を刺激するものであったとしても正当化されるべきではありません。しかし道がなければ、造らなければなりません。

世界の映画コミュニティは、そのような映画の製作者への有効な支援を保証すべきです。言論の自由を守るため、はっきり大きな声をあげるべきです。検閲を支持するのではなく、臆さずに立ちむかう人々は、国際映画団体の支援によってその行動の重要性を再確認します。個人的な経験からいえば、そうした支援が彼らのきわめて重要な仕事を続ける上で、貴重な助けとなるのです。

この映画は、多くの人の助けを借りて製作したものです。私の思いは、彼らと共にあります。彼らの安全、安寧が心配です。

聖なるイチジクの種
2025年2月14日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開