フランス人作家シドニが、日本の出版社から招聘される。見知らぬ国、見知らぬ人への不安を覚えながらも、彼女は未知の国ニッポンにたどり着く。寡黙な編集者の溝口に案内され、日本の読者と対話しながら、桜の季節に京都、奈良、直島へと旅をするシドニ。そんな彼女の前に、亡くなった夫アントワーヌの幽霊が現れて……。
未知の国ニッポンで出会う、新しい私。
過去を手放し麗らかな希望へと向かう、愛すべき物語
“不思議の国”に迷い込む作家シドニを軽やかに演じるのは、世界各国の巨匠たちとのコラボレイトで映画ファンを沸かせてきたフランスの至宝イザベル・ユペール。今回は日本を舞台に、過去を手放すことで喪失の闇を抜け、新たな一歩を踏み出す姿をチャーミングに映し出す。シドニと全編フランス語で会話し、深い喪失を共有する編集者の溝口健三役には、日本国内にとどまらず世界で活躍する国際派俳優の伊原剛志。そしてシドニの最愛の夫アントワーヌの幽霊役をアウグスト・ディールが演じ、愛と再生の物語にユーモアを添えている。
桜の季節に訪れる、
京都、奈良、直島の旅──
フランス人シドニの目を通して
紡がれる
“美しき日本”
青空に映える満開の桜、鹿が草を食む奈良公園、
苔庭の法然院──。
寺社仏閣や老舗旅館、古書店などを訪れ、日本文化と伝統、
信仰と死者との関係を発見していくシドニ。坂本龍一の楽曲が彩る穏やかな直島の海を見つめる彼女の目を通して、私たちも改めて魅力あふれる日本を再発見することができるだろう。
イザベル・ユペール/シドニ役
1953年、パリ生まれ。ヴェルサイユの音楽・演劇学校やパリの国立高等演劇学校などで学び、1971年に『夏の日のフォスティーヌ』で映画デビュー。クロード・シャブロル監督『ヴィオレット・ノジエール』(78)、ミヒャエル・ハネケ監督『ピアニスト』(01)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。さらにポール・ヴァーホーヴェン監督『エル ELLE』(16)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。その他の主な出演作に、ジャン=リュック・ゴダール監督『勝手に逃げろ/人生』(79)、ミア・ハンセン=ラヴ監督『未来よ こんにちは』(16)、ホン・サンス監督『クレアのカメラ』(17)、フランソワ・オゾン監督『私がやりました』(23)などがある。
伊原剛志/溝口健三役
1963年、福岡県生まれ、大阪府出身。83年に舞台「真夜中のパーティー」で俳優デビュー。NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」(96)で一躍注目を集める。その後、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。日本国内の作品のみならず、クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』(06)、ヴィセンテ・アモリン監督『汚れた心』(12)など、海外作品にも多数出演。その他の主な出演作に『十三人の刺客』(10/監督:三池崇史)、『超高速 !参勤交代』シリーズ(14,16/監督:本木克英)など。主演映画『ら・かんぱねら』が2025年公開予定。
アウグスト・ディール/アントワーヌ役
1976年、ベルリン生まれ。ベルリンのエンルスト・ブッシュ演劇大学で演技を学び、1999年に主演作『23 トゥエンティースリー』で俳優デビュー。同作でドイツ映画賞最優秀俳優賞を受賞し、一躍有名になる。さらに、アカデミー外国語映画賞受賞作『ヒトラーの贋札』(07)、クエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』(09)など、話題作に次々と出演。その他の主な出演作に『名もなき生涯』(19)、『復讐者たち』(20)などがある。
エリーズ・ジラール/監督・脚本
1974年、フランス生まれ。大学で脚本について学んだのち、演劇教室を受講しながら複数の映画に俳優として出演。その後、映画館の広報として働き、その時の経験をもとに2本の中編ドキュメンタリー映画『孤独な勇者たち/シネマ・アクシオンの冒険』(03・未)、『ロジェ・ディアマンティス、あるいは本物の人生』(05・未)を監督する。2011年には初の長編作品『ベルヴィル・トーキョー』を監督し、続く長編2作目『静かなふたり』(17)では、ベルリン国際映画祭フォーラム部門に選出された。
DIRECTOR’S NOTE
本作は、2013年に初めて日本を訪れたときに体験した感情から生まれました。書き始めてすぐに、イザベル・ユペールの顔が思い浮かびました。シドニという名前を選んだのは、日本語の子音であると同時に、私が特に好きな作家であるコレットへのオマージュでもあります。この映画旅行を通して、私は哀悼について語りたいと思いました。それと同時に再生について、思いがけず愛が戻って来ることについても語りたいと思いました。この映画は、過去と現在の”つながり”、哀悼の終わりと愛の始まり、フランスと日本を体現する2人の人物の出会いを描いています。またこの映画は、近くに感じると同時に異国にも感じられる国、日本への愛の告白でもあります。日本の古いものと超現代的なもの(伝統文化と新しい文化)の共存は、私の心に深く響きました。そしてその要素が、日本が映画に選ばれた国である理由だと思います。