友達も恋人も何もいらない。頭の中に流れる音を、形にできればそれでいい。そう思っていた清澄は、DTMでひとり作曲と演奏に没頭する日々を送っていた。清澄と同じマンションに住む潮は、好きなこともやりたいこともなく、他人の「いいね」だけを追いかけて生きてきた。そんな潮が初めて心を震わせたのが、下の部屋から聴こえてきた「寂しくって、あったかい」清澄の音楽。たくさんの人に清澄の音楽を届けたいと願った潮の破天荒な行動が、清澄を無理やり外の世界へと連れ出す。潮に導かれバンドを組んだ清澄が、仲間と音を創り出す喜びに目覚めた時、突然、潮が消えてしまう。さらに、清澄の才能を高く買うプロデューサーが現れ、清澄は自分自身の音楽の“形”をどうするか迫られる……。
清澄を演じるのは、川西拓実。デビューからシングル7枚すべてオリコン1位を獲得した、グローバルボーイズグループJO1のメンバーだ。端整なヴィジュアルとダイナミックなダンスで魅了するJO1での顔とは全く異なる、無口で無表情、人付き合いが苦手な清澄を完璧なまでに創り上げた。マンションの管理人をしながら趣味で音楽を奏でる清澄のシンプルな生活を変えてしまう潮には、数々の作品で築き上げた実力を、メインキャストを務めた「silent」でも発揮し、さらなる評価を高めた桜田ひより。大胆でストレートな言動の芯に、誰もが共感できる「何者にもなれない、居場所が見つからない」不安を抱えている潮を、繊細なプリズムのように多面的に表現した。
また、一度は決裂した清澄と再びバンドを組み音楽の楽しさを取り戻すベーシストの陸に栁俊太郎、大好きな音楽に関わりたいとレコード会社に勤めるが、利益を追求する日々に「こんなはずじゃなかった」と焦燥感を抱える航太郎に井之脇海、清澄と陸のバンドにドラマーとしてゲスト参加する岬に円井わんと、今を生きる若者たちをリアルに体現できるキャスティングが実現した。
さらに、清澄から生まれるすべての楽曲は、藤井風の全楽曲、iri、SIRUP、Awesome City Clubなどのプロデュースで知られ、映画音楽も手掛けるYaffleがミュージックコンセプトデザインとして参加。世界の音楽界の最前線に立つクリエイターが、今はもちろん少し先の未来にまでアクセスしたトラックを生み出した。また、撮影、照明、録音には「silent」チーム、美術、衣装には「チェリまほ」チームが集結し、風間監督の世界観を共に構築した。
スクリーンの中にいるのは、誰かをおもう、なにかを願う、そんな自分を見せるのが怖い、私たち自身。生きづらさを抱えながら、どこにも行けないあなたに贈る、青春音楽映画の新たなる傑作が誕生した。