2万年前、およそ7万年前から続いてきた最終氷期の中で、最も厳しい寒さに見舞われたのが、この時期だった。永遠に続くかのような冬。荒れ狂う猛吹雪の中、ジャコウウシ、トナカイなどの動物たちが亡者のような姿で長い列を作り、頭を低く垂れ、蹄で凍った大地をひっかきながら重い足取りで進む。おびただしい数の動物の群れが、氷のように冷たい風に逆らいながら、わずかながらの食料を探している。極寒の地で懸命に卵を温めるシロフクロウもいる。

およそ1万年前、太陽をまわる地球の軌道が変化し、気温が急上昇。大地を覆う氷から解放され、氷河期が終わる。氷河期を生きた動物たちは、北へ向かう長い旅がはじまる。急速に緑の海が大陸全土に広がり、深い森は新しい命に満ちあふれ、鳥たちはさえずり、カエルは鳴き、虫たちは、あらゆる音を奏でる。哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類があちこちを動き回る。

四季のはじまりにより、春に新たな生命が誕生し、夏に誕生した生命が躍動し、秋に繁殖の時期を迎え、厳しい冬に備える、という生命のサイクルがはじまる。雨風をしのぎ、夏の強い日差しから守る樹木が豊かな、生物多様性に富んだ森は、動物たちの楽園だ。木の幹に登り、枯れ葉を引っかき回し、池を泳ぎ、落ち葉や泉で踊り、それぞれが家族でじゃれあう。巡りゆく季節のリズムに向かって行進し、格闘し、求愛する。自然は、捕食者であるクマ、オオカミ、オオヤマネコに食物を与える。豊かな時代、平和な時代。

動物たちが森の全てを謳歌できる日々に変化が訪れる。木々は人間の斧で打ち倒されていく。人間は、土地を耕し、種を蒔き、農民の集落を形成した。そして、牛やブタ、ヤギなどを家畜にしてゆく。森は田畑に取って代わり、バイソンのような大型の動物は大陸のはずれに逃げ込むしかない。しかし、その他の動物にとっては、集落の生活が恵みとなる。生け垣には小鳥のさえずりが響き渡り、黄金に輝く稲の実り、牧草地では虫たちが音を立てる。陽光きらめく池は自らを飾りたて、魚、昆虫、カエル、水鳥たちを喜ばせる。

人間たちの生活圏はますます広がっていく。凄まじい勢いで文明を発展させる一方で、必要以上に自然を怖れ、すべてを支配しようとした。人間にとって有害だと思われる、クマ、オオカミ、フクロウ、キツネなど、家畜を狙う多くの動物を駆除していった。しかし、人間のつくった田園地帯で暮らすことを選択した生き物たちもいた。そこでは、森とはまったく違う新しい形で、それぞれの生き物たちが助け合い、共生している。時代の変化に合わせ、その環境に適応し、たくましく生きている。
 
この新しい世紀の春に、もう一度人間と自然が穏やかに共存することは夢ではないのだ。